大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)225号 判決 1957年12月27日

主文

原判決を破棄し、本件を広島高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人鍛冶利一、同上田八九三の上告理由第三点について。

原判決確定の事実によれば、上告人は昭和二五年一二月三〇日被上告人金丸からその所有にかかる本件宅地建物を庭園設備備付のまま買い受け、翌二六年八月六日その所有権移転登記を経由し次いで同月二五日右建物の明渡を受けたのであるが、被上告人沢は右建物明渡以前である同月一三日被上告人金丸に対する債務名義に基き、右庭園設備として備えつけられた原判決添付第二目録記載の物件につき強制執行をし、執行吏はこれを差し押えて競売に付した結果、同月二二日被上告人沢において自らこれを競落してその引渡を受けた。右物件は右の如く同被上告人の競落前すでに上告人が本件宅地建物とともにこれを買い受けその宅地建物について所有権取得登記を経由しているものであるが、右物件のうち庭踏石、庭石、灯篭、手洗鉢、五重塔は動産であり、かつ同被上告人は平穏公然善意無過失にその競落により引渡を受けたものであるから、同被上告人は民法一九二条によりその所有権を取得したものであるというのである。

しかし、無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法一九二条によりその所有権を取得しうるためには、譲受人はその占有を取得することを要ししかもその占有の取得は占有改定の方法による取得をもつては足らないものといわなければならない(大正五年五月一六日大審院判決、民録二二輯九六一頁参照)。ところで、本件についてこれをみるに、原判決は、被上告人沢は競落により前記物件の引渡を受けたと認定しているけれども、右物件は本件宅地に設営された庭園設備の一部であつて、執行吏はこれを現状のまま差し押えて競売に付し、競落人たる被上告人沢に対してもこれを現状のまま引き渡したものであることは、原判決の判示自体からも明らかであるから、その引渡は特段の事情のないかぎりいわゆる占有改定による引渡と認むべきであり、したがつて、仮に右物件が動産でありかつ被上告人沢が平穏公然善意無過失にその占有を始めたとしても同被上告人はこれによりその所有権を取得するに由ないものといわなければならない。しかるに原判決は、右の引渡をもつて占有改定で足ると解したものの如く、前記物件につき同被上告人の取得した占有の性質につき格別の審理判断をすることなくたやすく同被上告人の所有権取得を認めたのは、審理不尽理由不備の違法に陥つたものというのほかなく、論旨は理由があり破棄を免れない。

よつてその他の上告理由に対する判断を省略し、民訴四〇七条により裁判官全員一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例